法律案の採決といえば、議席に座った議員がボタンを押したり、投票用紙を書いたりする光景を思い浮かべるかもしれない。
しかし英国議会では、議員が自分の意思を示すために実際に歩く。賛成する議員は一方の廊下へ、反対する議員は反対側の廊下へ進み、その通路を通った人が票として記録される。
21世紀の国会で行われている採決だ。しかも議員には、移動するための時間が定められている。

ロンドンのウェストミンスター宮殿。英国の上下両院が置かれている。画像:CivArmy / Wikimedia Commons / CC BY-SA 4.0(表示用に縮小)。
投票の前には、まず声を出す
英国下院では、採決が必要になると議長が賛否を問う。議員たちは賛成なら「Aye」、反対なら「No」と声を上げる。明らかに一方が多ければ、その声で結論が確認されることもある。
だが判断が難しい場合や正式な記録を求める場合には、division(ディビジョン)と呼ばれる採決が行われる。日本語にすれば、議場の議員が分かれるという意味に近い。
下院の議場の左右には投票用の通路があり、賛成のAye Lobbyと反対のNo Lobbyに分かれている。議員は自分の選んだ通路を進む。投票のために別々の扉をくぐるのである。
現代の議会はこの伝統を維持しながら、議員名の記録には電子的な仕組みも用いている。廊下を歩くこと自体が、古いまま残っている。
鐘が鳴ってから八分
投票が始まると、議会内だけでなく近くの施設にもある投票のベルが鳴る。議員が討論に参加せず、別の執務室にいることもあるからだ。
英国議会の案内によれば、ベルが鳴ってから8分がたつと、投票用通路への扉が閉まる。議員は限られた時間に移動しなければならない。
これは廊下を歩くことを楽しむための行事ではない。数百人の議員がそれぞれの意思を示し、その場で数を確定する手続きなのである。
上下両院で用いる廊下の名前も異なる。下院はAyeとNo、上院はContentとNot Content。現代の法律を決める場に、長い議会史で生まれた言葉がそのまま残っている。
英国議会の採決方法を示すオリジナル模式図。実際の建物の左右配置や寸法を示すものではない。
歩く採決は単なる古い習慣なのか
投票の方法は、投票結果そのものだけでなく、議員がどう行動するかにも影響する。議場から出て二つの通路に分かれる方法なら、議員がどちらへ進んだかを記録できる。議会内で同僚や政党の幹部と直接顔を合わせる機会も生まれる。
ただし、こうした効果が制度を維持する唯一の理由だと断定することはできない。電子採決が広く使われる時代でも、議会の歴史と儀礼、政治の習慣が制度の一部になっている。
英国の小選挙区制では、得票率と議席率が大きく食い違うことがある。選挙で議員を選ぶ方法も、議員が議場で票を投じる方法も、国によって大きく異なる。民主政治は、意見を数えるための細かな手続きの積み重ねでできている。