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得票率34%で議席63%。なぜ選挙制度だけで政治の結果が変わるのか

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更新日:2026-10-31

2024年7月、英国で新しい首相が生まれた。労働党は総選挙で圧勝し、650ある下院の議席のうち411議席を獲得した。議会の約63%に当たる。

では、国民の何%が労働党に投票したのだろう。60%? 70%?

実際は**33.7%**だった。投票した人のおよそ3人に1人の支持で、議席では6割以上を手にしたことになる。計算が間違っているわけではない。英国の選挙制度では、こういう結果が起こりうるのだ。

同じ2024年の総選挙では、改革UKが全国で14.3%の票を得たのに、獲得した議席は5つ。議席率はわずか0.8%だった。どうしてここまで差が開くのか。

選挙は票を数えるだけの行事ではない。集めた票を、権力の配分へ変換する仕組みでもある。 そして、その変換のしかたは国によって驚くほど違う。

2024年7月4日の英国総選挙で投票所として使われたブルックフィールド小学校。何千万もの投票を議席に変える仕組みは、国によって異なる

2024年7月4日、英国総選挙の投票所となったロンドンのブルックフィールド小学校。写真:Bondegezou / Wikimedia Commons / CC BY-SA 4.0(表示用に縮小。選挙当日の記録写真)

まず、10の町で選挙をしてみる

ここに架空の国がある。人口が同じ町が10あり、それぞれから議員を1人ずつ選ぶ。どの町にもA・B・Cという三つの政党の候補者が立候補している。

驚くことに、どの町でも結果はまったく同じだった。

政党どの町でも得た票全国の得票率
A党40票40%
B党35票35%
C党25票25%

有権者は全部で1000人で、10町にそれぞれ100人がいると仮定している。実際の選挙では、もちろん町ごとに支持率は違う。ここでは選挙の仕組みだけを比較するため、あえて極端な条件にした。

各町で最も得票の多かった候補者を1人当選させると、どうなるだろうか。

A党が10議席すべてを獲得する。B党とC党は0議席。

A党を支持した人は全国の40%しかいない。それでも議席は100%だ。反対にB党とC党には計60%の支持があったのに、議会に代表を1人も送れなかった。

この仕組みが**小選挙区制(単純最多得票制)**の基本だ。「一つの地域で一番票が多かった人が勝つ」というルールは分かりやすい。その代わり、2位以下の票は、その選挙区の当選者を決めるうえでは議席につながらない。

では、同じ1000票をそのまま全国で数え、10議席を得票の割合に近づけて配分したらどうなるか。A党4議席、B党とC党がそれぞれ約3〜4議席となる。正確な配分は端数をどう処理するかで変わるが、少なくともA党の総取りにはなりにくい。

同じ人々が、同じ政党に、同じ票を入れた。それでも議会の姿がまるで違う。

投票箱は同じでも、票の数え方を変えれば政治の結果は変わる。

小選挙区制――2位はどれだけ惜しくても負ける

英国の下院選挙は、650の選挙区で議員を1人ずつ選ぶ仕組みだ。英語では First Past the Post(FPTP)と呼ばれる。過半数の票を獲得する必要はなく、ほかの候補者より1票でも多ければ当選できる。

例えば、ある選挙区の結果がA党35%、B党34%、C党31%ならA党が勝つ。しかし、その選挙区の有権者の65%はA党以外へ投票している。

それでも選ばれる議員はA党の1人だけだ。これが全国の多数の選挙区で積み重なると、わずかな票の差が大きな議席差へ膨らむことがある。

重要なのは、得票率だけでなく票がどこに集まっているかだ。

A党が各地で少しずつ勝つ一方、B党が少数の地域で圧倒的に強いとする。B党には全国で多くの支持者がいても、議席ではA党に負けることがある。逆に、全国では少数の支持しかなくても、特定の地域に支持が集中していれば議員を送り出せる。

この仕組みの特徴は、大政党に有利になりやすいことや、接戦の選挙区を多数勝ち取った政党が議会の多数派をつくりやすいことだ。だが「必ず二大政党になる」「全国で最多得票の党が必ず勝つ」といった絶対的な法則ではない。地域政党や候補者個人の強さ、政党の協力関係によっても結果は変わる。

英国の2024年総選挙は、例外ではなく制度の姿を映した

英国下院図書館がまとめた2024年の結果を比べると、票と議席がいかに違うものかがよく分かる。

政党全国得票率議席数議席率
労働党33.7%411約63.2%
保守党23.7%121約18.6%
改革UK14.3%5約0.8%
自由民主党12.2%72約11.1%

これは実際の結果であり、先ほどの架空の10町とは違う。候補者への支持が地域で異なることや、ほかの政党との競争の形が議席に反映されている。

改革UKは自由民主党より多くの票を集めたのに、議席は大きく下回った。全国の得票数だけでは、当選者の数を説明できない。英国下院図書館は、この2024年の票と議席のずれを、記録的に大きなものと位置づけている。

ここで注意したいのは、「労働党を国民の63%が支持した」という意味ではないことだ。63%は議席の割合であって、投票した人の割合ではない。政治のニュースで大勝と聞いたとき、この二つを区別するだけでも見え方が変わる。

比例代表制――議会を国民の縮図に近づける

では、議会の議席を得票率に近づける方法はないのだろうか。

そこで使われるのが比例代表制だ。単純化して、100議席を全国の政党支持で配分すると考えてみよう。A党が40%、B党が35%、C党が25%の票を得たなら、議席もA党40、B党35、C党25とするのが最も直感的だ。

実際には、得票率に議席数を掛けても整数にならない。23.6議席という当選者は作れないため、各国では端数の扱いを決める計算方式を使う。選挙区を国全体とするか、地域ごとに分けるかによっても結果は異なる。

比例代表制なら、全国に薄く広がる支持も議席に反映されやすい。小政党や、各地に少数ずつ存在する意見を議会へ届けやすいという利点がある。

しかし、比例代表制も完全な鏡ではない。例えば議席配分の対象になるために得票率が一定の水準を超えなければならないという「阻止条項」がある国では、そこへ届かなかった政党の票が議席に結びつかないことがある。

また、比例代表制には複数の種類がある。政党の名簿順で当選者を選ぶ方式もあれば、有権者が候補者の順序に影響できる方式もある。人口が少ない選挙区から少数の議員しか選ばれない場合、比例制でも小政党が議席を獲得しにくくなる。

比例代表制が実現しようとしているのは、「どの地域で誰が勝ったか」よりも、社会にどんな意見が何割あるかを議会に反映することだ。

ただし、その結果として議会に多くの政党が並べば、単独で過半数を持つ党がなくなる場合もある。政党同士で政策を交渉し、連立を組む必要が生まれる。少数意見が反映されることは利点だが、政治の決定まで時間がかかることもある。逆に、交渉によって広い合意が生まれる可能性もある。

代表の多様性と、意思決定のしやすさ。 選挙制度はこの二つの価値の間で何を優先するかを問うている。

日本――二枚の投票用紙は、なぜ別々に数えられるのか

日本の衆議院議員選挙では、有権者は通常、候補者の名前を書く小選挙区の票と、政党名を書く比例代表の票を投じる。

2026年10月時点で衆議院の定数は465人。その内訳は小選挙区289人、比例代表176人だ。

日本の仕組みは小選挙区比例代表並立制と呼ばれる。二種類の選挙を合わせて行うが、重要なのは、小選挙区の結果と比例代表の結果を、基本的にはそれぞれ独立に計算する点だ。

例えば、ある政党が小選挙区で非常に多く当選したとしよう。だからといって、比例代表での当選者数がその分だけ減らされるわけではない。比例代表176議席は、各ブロックでの政党票などに基づいて別に配分される。

同じ政党が小選挙区と比例代表の双方で議席を得ることができる。小選挙区で勝った党が、大きな議席の上積みを得ることもある。

そのため**「比例代表を取り入れたから、国全体の議席も得票率に比例する」とは限らない**。日本の制度は、地域から一人を選ぶ仕組みと、政党の得票を議席に反映させる仕組みを並べて置いたものなのである。

なお、衆議院で落選した小選挙区候補者が、比例代表で当選する場合がある。いわゆる「比例復活」は、小選挙区と比例代表の重複立候補を認める制度から生まれる。投票した人の意思が勝手に別の候補へ移されたわけではなく、あらかじめ定められた名簿と当選ルールによる結果だ。

衆議院のルールは、一見すると小選挙区制と比例代表制のちょうど中間のように見える。しかし、二つの仕組みを足したことと、二つの結果を調整することは同じではない。その違いが、次のドイツの例を見ればはっきりする。

ドイツ――同じ二票制でも、日本とはまったく違う

ドイツ連邦議会の本会議場。国会の議席配分には、地域の代表と得票に応じた代表の両方の考え方がある

ドイツ連邦議会の議場(2023年撮影。2025年選挙の議席構成を示した写真ではない)。写真:Chaddy / Wikimedia Commons / CC BY-SA 4.0(表示用に縮小)

ドイツの連邦議会選挙でも、各有権者に二つの票がある。一つは地元の候補者を選ぶ票、もう一つは政党の州名簿を選ぶ票だ。

見た目は日本と似ている。ところが、結果の計算では大きく違う。ドイツでは原則として、政党が最終的に得る議席数は、政党名簿への第二票を中心に決められる。

ドイツは小選挙区と比例代表を組み合わせるが、得票率から大きく外れないよう全体の議席配分を調整する仕組みを持っている。国際的には「小選挙区比例代表併用制」の代表例として扱われることが多い。

そしてドイツの制度は、2025年の総選挙から重要な変更を迎えた。

それまでは小選挙区で勝った候補者の当選を認めることで、政党に割り当てられる議席数を超える場合があり、議会の定数が膨らむ原因となっていた。改革後の連邦議会は630議席に固定される。

2025年以降は、政党所属の候補者が小選挙区で最多得票を得ても、その党が第二票に応じて割り当てられた議席数の範囲に収まらなければ、議員になれない場合がある。

「地元で1位なのに議員になれないなんて、おかしい」と感じる人もいるだろう。しかし別の立場から見れば、地元での勝利を無条件に積み重ねた結果、全国の得票率と議席率が離れすぎることを防いでいる。

地域の勝者を必ず送り出すことと、国全体の得票を正確に反映すること。 二つを完全に同時達成するのは、思ったほど簡単ではない。

選挙制度は、投票する前の行動まで変える

選挙制度の影響は、開票後にどの党が何議席を得るかだけではない。有権者が誰へ投票するか、政党がどこへ候補を立てるかまで変えてしまう。

例えば、小選挙区でA党とB党が接戦を繰り広げ、C党は支持するが当選は難しそうだとする。C党が一番好きな有権者でも、「C党に投票すると票が議席にならないかもしれない。B党よりはA党のほうがまだよい」と考え、A党に投票することがある。

これが戦略投票だ。

戦略投票は、有権者が不誠実だから起こるとは限らない。自分の一票が最終的な結果にどのように影響するかを考える、合理的な行動でもある。小選挙区制では、「最も好きな候補」と「勝ってほしい候補」が一致しないことがある。

政党の側にも同じ圧力が働く。似た政策の政党が同じ選挙区で候補を立てると支持が割れて、反対する政党が勝ちやすくなる。そのため候補者の一本化や選挙協力の交渉が起きる。

一方、比例代表制で複数の政党が議席を獲得しやすければ、選挙前には競争し、選挙後に連立交渉をするという戦略が生まれやすい。

つまり選挙制度は、すでに存在している民意をただ写し取るだけではない。民意がどのように投票へ現れるか、その振る舞い自体を形づくっているのだ。

選挙区の境界線も、無色透明ではない

小選挙区制では、どこに選挙区の境界を引くかも重要になる。

先ほどの10町の例で、住民の人数も支持する政党も変えずに、町をどう組み合わせて選挙区にするかを変えてみる。するとA党が勝つ選挙区の数が変わる場合がある。得票数は同じでも、票の配置を変えるだけで議席が変化するわけだ。

特定の政党に有利なように選挙区を区切ることは、ゲリマンダリングと呼ばれる。ただし、どんな区割りの変更もゲリマンダリングというわけではない。人口の変動に合わせた区割りの見直しは必要であり、地理的にまとまった地域をどう扱うかにも合理的な議論がある。

重要なのは、できるだけ公正で透明なルールのもとで境界を決め、特定の政治勢力の意図だけで結果が左右されないようにすることだ。

ここには、民主主義の難しさが凝縮されている。「一人一票」を守るだけでは、票が議席へ変わる過程の公平さまで自動的には保証できない。

では、どの制度がいちばん民主的なのか

英国のような小選挙区制には、地元の誰が代表者か分かりやすく、地域との結びつきが強いという利点がある。政党がある程度集約され、議会で安定した多数派をつくりやすい場合もある。

しかし、全国では相当な支持がある政党が議席を得にくく、接戦区のわずかな票差が議席で大きな差になることもある。

比例代表制は、多様な意見を議会へ反映しやすい。半面、議席配分の計算が複雑になり、名簿上の候補者を政党がどう選ぶかが重要になる。連立交渉の結果、選挙前には想像しにくかった組み合わせで政権が生まれる場合もある。

日本の並立制は二つの要素を合わせているが、票と議席のずれを全体で補正する仕組みではない。ドイツの併用制は全国の比例性を重視する一方、2025年以降は小選挙区で最多得票でも当選できない場合が生まれる。

どれも「単純に優れている」とは言い切れない。制度の評価は、何を民主主義の中心に置くかによって変わるからだ。

大切にしたいこと重視する制度上の工夫
地元の代表を分かりやすくする一つの選挙区から議員を選ぶ
全国の意見の割合を反映する得票に近い議席を配分する
小政党にも議会参加の道を開く比例性の高い配分や選挙区設計
政党の乱立を抑える一定の当選要件など
議会の意思決定を速くする多数派形成がしやすい仕組み
政権の決定に広い合意を求める複数政党間の協議が必要な仕組み

表の各項目には例外がある。選挙制度だけで政党の数や政治の安定性が決まるわけではない。政治文化、地域差、政党組織、議会の権限、憲法なども一緒に働く。

民主主義を「多数の人に支持された人を選ぶこと」とだけ考えていると、英国の結果が奇妙に見える。逆に「各地域から最も多く支持された人を一人ずつ送ること」と考えれば、同じ結果は制度のルールに沿っている。

しかし、どちらの考え方にも、代表できないものがある。

2024年の英国では、投票者の33.7%を得た政党が下院の約63%を獲得した。この数字は、一つの政党への賛否を超えて私たちに問いかける。

「国民の意思を議会に反映する」とは、票を何人分集めたことなのか。それとも、何か所で勝利したことなのか。

投票用紙を箱へ入れたとき、民主主義の仕事はまだ終わっていない。そこから票をどう議席に変えるか――その見えにくいルールが、次の政治の形を決めている。

REFERENCES

参考文献・出典

  1. Electoral System Design Database ↗International IDEA(選挙制度の国際比較データベース)
  2. 2024 general election: Performance of Reform and the Greens ↗英国下院図書館(2024年8月16日)
  3. General election 2024 results ↗英国下院図書館(選挙結果資料)
  4. 国会の構成 ↗日本の衆議院(定数・選出方法の公式情報)
  5. The Electoral system ↗ドイツ連邦選挙管理官(2025年の制度)
  6. Electoral System Reform and Design ↗International IDEA(Hutchcroft, 2019)
  7. 2024年英国総選挙と得票率・議席率 ↗米国議会調査局(2024年7月8日)

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