財布に入れた小銭が重いと感じることはある。しかし17世紀のスウェーデンでは、その不満は今とは比較にならなかった。
この国では、巨大な銅の板が貨幣として使われていた。大きなものは重さ19.7kg。ノートパソコンどころか、旅行用のスーツケースを抱えているような重さである。

ストックホルムの貨幣博物館に展示された10ダーレルの銅製板貨。画像:Ulrika B / Kungliga Myntkabinettet / Wikimedia Commons / CC BY-SA 3.0。表示用に縮小。
硬貨が板になった事情
スウェーデンにはファールンの銅山など、重要な銅の産地があった。一方、通貨として広く使われた金属には銀もある。銀と銅では同じ価値を表すために必要な金属の量が違った。
銅の価値が相対的に低ければ、ある額面に見合うだけの銅を使った貨幣は大きく重くなる。政府は銅の価格や貨幣制度の事情も踏まえ、銅の板に刻印を打った板貨を作った。
スウェーデン中央銀行の歴史資料によれば、1644年には世界最大級の貨幣が登場し、その最大のものは19.7kgだった。単に展示用の冗談として作られた物ではない。額面を持った本物の貨幣である。
小さな銅貨を大量に持つか、一枚の巨大な板を持つか。どちらにしても高額の支払いを扱うには不便だった。
重い貨幣が便利な紙を呼び寄せた
17世紀にヨーロッパで銀行業が発達すると、金属貨幣を預け、その代わりに受取証や紙の証書を使う方法が広がっていった。
1661年、スウェーデンのストックホルム銀行は、欧州で最初期の本格的な銀行券を発行した。重い銅貨を運ばなくてよい紙のお金は、実用上の魅力が大きかった。
ただし紙幣の登場は、銅貨が重かったからという理由だけで説明できない。銀行の貸出、預金の引き出し要求、政府の貨幣政策などが複雑に関わっていた。
この初期の銀行券は便利だった一方、発行が行き過ぎ、銀行の信用が崩れる事件にもつながった。詳しくはヨーロッパ最初期の紙幣を出した銀行が破綻した話で追える。
お金の価値は、重さから離れていった
現代の千円札は、紙の原材料が千円分あるから使えるわけではない。社会で価値が認められ、支払いに使えるという信用がある。
かつての金属貨幣では、金属そのものの価値が重要だった。その一方で、紙幣が広まると、額面と材料の価値が大きく異なる貨幣が日常的になった。
19.7kgの銅貨は奇妙に見える。しかし当時の人々が貨幣に何を求め、どのように価値を認めていたのかを考えると、むしろ現代の紙幣のほうが大胆な発明だったとも言える。