ミクロネシア連邦のヤップ島には、家より大きな価値を持つ石が道ばたに置かれたままになっていることがある。盗まれないからではなく、動かさなくても所有者を変えられる場合があるためだ。
石の名前は「ライ」。中央に穴の開いた円盤状で、大きなものは人間よりはるかに重い。中には何トンもある石まで存在する。では、この石で何かを買うとき、どうやって運ぶのだろう。
答えは、運ばないこともある、だ。
ライは日々の買い物で小銭のように使うものではなく、婚姻や儀礼など、重要な場面で価値を持つ。あまりに重い石は元の場所に置いたまま、人々が持ち主の変更を認めることで、所有権が移っていくことがある。
しかも、その価値は大きさや重さだけでは決まらない。どのように採掘され、誰が運び、誰の手に渡ってきたかという歴史も大切だ。石の一つひとつに、いわば来歴がある。
さらに驚くのは、ヤップ島で使われた石の多くが、はるか離れたパラオで切り出されたことだ。人々は海を越えて石を運び、その大変な労力自体も石の価値に関わってきた。
現代のお金も、考えてみれば紙やデータそのものに価値があるわけではない。人々が価値を認めるから、お金として使える。動かない石貨は、私たちの電子決済と意外なほど似た問いを投げかけている。