1962年7月9日、太平洋上のジョンストン島付近で、アメリカ軍が核爆発の実験を行った。爆発したのは地表ではない。高度およそ400キロメートルの上空だった。
地上からは非常に明るい光が見え、空には奇妙な発光が広がった。ところが約1400キロメートルも離れたハワイでは、一部の街灯が突然消え、通信設備などにも異常が起きた。
上空での核爆発が、遠く離れた街の電気設備にまで影響したのである。
地上の爆風が届いたわけではない
「スターフィッシュ・プライム」と呼ばれる実験では、核弾頭をロケットで高高度まで運び、宇宙空間に近い場所で爆発させた。
通常の地表近くの核爆発なら、爆風や熱が地上の建物に直接大きな損害を与える。しかし今回、ハワイで街灯が消えたのは、爆風が1400キロメートルも伝わったからではない。
高高度で核爆発が起こると、放出されたガンマ線などの影響で大気中に高速の電子が生じ、電磁場が急激に変化する。この変化が「電磁パルス(EMP)」として広い範囲に影響を及ぼすことがある。
長い電線や通信線は、変化する電磁場の影響を受けて電圧や電流が発生することがある。設備の弱い部分に予期しない負荷がかかれば、故障につながる。
一部の街灯が壊れた
当時のハワイでは、約300基の街灯が消えたと伝えられる。しかし「ハワイの街全体が停電した」という意味ではない。電磁パルスによって起きたと考えられる影響には、場所や設備による差があった。
米国サンディア国立研究所は1989年、街灯事故と高高度EMPの関係を検討する報告書をまとめた。事故の技術的な原因と、核爆発との関係は研究対象にもなっている。
核実験では、地上の設備だけでなく人工衛星にも問題が起きた。爆発によって地球の周囲の放射線環境が変化し、一部の衛星が損傷を受けたのである。
一度の実験が残した問題
冷戦時代の米ソは、核兵器が地上だけでなく宇宙空間でどのような影響を及ぼすかを調べていた。しかし高高度の核爆発は、予想しきれない遠方への影響を引き起こす可能性があった。
1963年の部分的核実験禁止条約では、宇宙空間や大気圏内などでの核実験が禁止された。
現代の私たちは、通信や測位、金融取引など多くの活動を電子機器に頼っている。スターフィッシュ・プライムは、核爆発の影響が爆心地の周辺だけでなく、遠くの電子機器や宇宙の人工衛星にも及び得ることを示した出来事だった。