1854年、ニューヨークのクリスタル・パレスで開かれた博覧会。発明家エリシャ・オーチスは、昇降台に自分で乗り、高い所へ上がった。
そこで、台を支えるロープを切らせた。
台は少し下がったが、地面まで落ちることはなかった。安全装置が働き、途中で止まったのである。観客に見せたのは、機械が正常に動く場面ではなく、支えを失った場面だった。

オーチスの実演を描いた版画。作者不詳/Wikimedia Commons/パブリックドメイン。
ロープが切れたら、別の仕組みで支える
荷物を上へ運ぶ昇降機は、オーチス以前から使われていた。工場や倉庫では、重い物を上階へ持ち上げる需要がある。ただし、吊り上げるロープが切れれば、台も荷物も落ちてしまう。
オーチスが開発したのは、この故障に備える安全装置だった。ばねと歯のかみ合いを利用し、吊り上げる力が失われたときに、台を支える仕組みである。
上へ運ぶ機能と、落下を止める機能を別に持たせる。通常の運転中には目立たない後者を、博覧会ではあえて主役にした。
説明を聞くだけなら、装置が本当に働くかは観客にはわからない。発明者自身が乗り、ロープが切れた後も台に立っているところまで見せれば、実演の意味ははっきりしていた。
3年後には、百貨店の客を運んだ
1857年、オーチスの会社は、ニューヨークの5階建て百貨店E・V・ホウワウトの建物に、同社初の乗客用エレベーターを設置した。
荷物を運ぶ機械へ、人が乗る。その用途を広げるには、持ち上げる力だけでなく、故障時にどう止めるかも重要になる。高い階まで客を運べれば、建物の上階も使いやすくなる。
1854年の実演では、台が上がったところで拍手を求めず、そこからロープを切った。わずかに下がって止まった台の上に、オーチスが立ち続ける。その場面が、安全装置の働きを観客へ伝えた。