海底を歩くタコが、ヤシの実の殻を荷物のように運んでいる。
殻は半分に割れた器の形。それを重ね、体の下へ抱え込み、腕を突っ張って持ち上げながら進む。泳げる動物なのに、わざわざ歩きにくそうな格好で移動している。
この行動を2009年に報告したのは、ジュリアン・フィンらの研究チームだ。インドネシアの海で観察されたタコ、学名 Amphioctopus marginatus は、運んだ殻を後で隠れ家に使っていた。
隠れる場所の少ない海底で
このタコは、砂や泥の海底にすむ。岩の割れ目だらけの場所とは違い、外へ出れば体を隠せる場所が乏しい。柔らかな体で餌を探すタコにとって、身を覆う硬い物は役に立つ。
オーストラリア博物館によれば、この種は砂や泥に潜るほか、捨てられた貝殻やヤシの殻を防御に使う。インドネシアの人の住む海岸近くでは、捨てられたヤシの殻を見つけられるという。
半分の殻を二つ合わせれば、中へ入れる小部屋になる。海に落ちた器が、タコには携帯できる隠れ家になるわけだ。
注目されたのは、使っていない時間
研究者が面白がったのは、殻に入っている場面だけではない。
身を守る物をその場でかぶる行動なら、使う目的と動作がすぐにつながる。このタコは、殻を集め、重ね、持ち運び、必要になってから隠れ家として組み立てた。
運んでいる最中の殻は、体を包んで守ってくれない。むしろ移動の邪魔になる。それでも手放さずに運ぶという、使用と運搬の時間差に研究チームは注目した。
論文では、この一連の行動を防御のための道具使用として報告している。材料を運ぶ不格好な姿にこそ、その報告の核心があった。
人間が捨てるより前は、何を使ったのか
人が海へヤシの殻を捨てるようになる前にも、海底には大きな二枚貝の殻があった。研究者たちは、もともと貝殻を利用していた行動が、比較的新しく手に入るヤシの殻にも広がった可能性を挙げている。
これは行動の起源についての仮説だが、同じタコが貝殻も利用することは観察されている。重要なのは、材料が天然か、人の捨てた物かより、体を収められる形と硬さなのだろう。
タコが殻を抱えて海底を進む。到着した先で殻を合わせ、柔らかな体を中へしまう。拾った物を、その場限りの覆いではなく、持っていける隠れ家にしている。
