解説 · 生物

葉を運ぶアリは、葉を食べていなかった。巣の地下に農場がある

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更新日:2026-10-31

熱帯雨林の地面を、小さな緑の切れ端がぞろぞろ進んでいく。近づいて見ると、葉を頭の上に掲げたアリたちの行列だ。葉を運ぶのだから、巣に持ち帰って食べるのだろう。

ところが、ハキリアリはその葉を主な食料として直接食べているわけではない。葉は、巣の地下に広がる「畑」の肥料のような材料なのである。

ブラジルの森で葉を切り取るハキリアリの仲間。持ち帰った葉は菌類の栽培に使われる

ブラジルの保護区で撮影された実写真。画像:CaptainDarwin / Wikimedia Commons / CC BY-SA 4.0(表示用に縮小)

アリの巣の中にある、小さな農業

切り取られた葉は巣に運ばれ、さらに細かく処理される。そこへ栽培している菌類が広がる。アリたちは菌類が育ちやすいように材料を整え、菌類の成長した部分を食べる。

スミソニアン博物館の研究者によれば、菌類を栽培するアリの祖先は、約5000万年前から農業のような行動を始めていたと考えられる。ハキリアリはその中で高度に専門化したグループだ。

人間が畑で作物を育て始めたのは、およそ1万年前。農業の「発明者」は人間だけではなかった。アリたちは、私たちのずっと前から、自分たちだけでは食べにくい植物を別の生物に加工させる生活を続けてきたのだ。

葉の好みは、アリだけの好みではない

ではハキリアリは、どんな葉でも切ればいいのだろうか。

そうはいかない。葉の成分によっては栽培する菌類に適さないことがある。パナマのスミソニアン熱帯研究所の研究では、アリが持ち帰る葉の選択を、菌類が必要とする栄養の条件から考えている。

遠目には働きアリが葉を選んでいるように見える。しかし、その判断の裏には、巣の奥にいる別の生物の要求が隠れている。アリだけを観察しても、行動の意味を解き明かせない。

農場には病気もある

農業には収穫があり、同時に病害もある。アリの菌類の畑にも、栽培している菌類を傷つける寄生性の菌類が侵入する。

ハキリアリの一部は、体表で暮らす特定の細菌と共生する。2018年の研究では、アリが維持する細菌のつくる抗真菌物質が、農園を守る働きに関わっていることが示された。つまり一つの巣の中で、アリ・栽培菌・防御に役立つ細菌・寄生する菌という、複数の生物が関わる攻防が起きている。

人間の農場のように、植えるもの、育てるもの、病気を防ぐものが必要になる。ただし、人間の農業とアリの農業が同じ歴史を歩んだわけではない。互いにまったく別の進化の道から、似た仕組みにたどり着いた。

森の地面を歩く緑の行列は、食料の運搬ではなく、地下の農場へ運ばれていく資材の列だったのである。

REFERENCES

参考文献・出典

  1. New Research at the Smithsonian's National Museum of Natural History Reveals Ants as Fungus Farmers ↗スミソニアン博物館(2008年)
  2. Darwinian Diet: Evolutionary lessons from agricultural ants in Panama ↗Smithsonian Tropical Research Institute(2020年)
  3. Chemical warfare between leafcutter ant symbionts and a co-evolved pathogen ↗Nature Communications 9, 2208(2018年)

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