1999年9月23日、NASAの火星探査機マーズ・クライメイト・オービターは、火星に到着するはずだった。前年12月に地球を離れ、9か月以上かけて飛んできた探査機である。
だが予定していた軌道に入ることはできなかった。火星に近づきすぎた探査機との通信は失われ、計画は失敗に終わる。
事故の調査で明らかになった原因の一つが、驚くほど身近なものだった。数字に使われた単位が違っていたのである。
同じ数字でも、単位が違えば別の力になる
探査機を火星の周りに入れるには、長い航行の途中で何度も軌道を調整する必要がある。小さなエンジンを噴射するたびに、速度や進む方向が少しずつ変わる。地球の管制チームは、その効果を計算して次の操作を決める。
ところが、探査機の運用に関わる二つのチームで、力や推力に関するデータの単位が統一されていなかった。
一方はヤード・ポンド法に基づく単位を使い、もう一方はメートル法に基づく単位として扱っていた。例えばポンド重とニュートンは、同じ「力」を表すが値が違う。1ポンド重は約4.45ニュートンに相当する。
こうした不一致によって、探査機の軌道を見積もる計算に誤差が生じた。火星到着時には予定より低い高度を通ることになり、探査機は失われた。
なぜ途中で見つからなかったのか
NASAの調査報告が強調したのは、「誰か一人が単位を間違えた」という話だけではない。異なるチームから渡されるデータの形式を確認し、誤りを発見する仕組みが十分に働いていなかったことが問題だった。
火星まで届く機械をつくれても、地上の組織で数値の意味を一致させられなければ失敗する。高い技術と、基本的な情報の受け渡しは別々の難しさを持っている。
1999年の探査機には、火星の大気や気候を調べるという大きな目的があった。その計画を失わせたのは、未知の宇宙現象ではなく、地球で使っている二つの単位系の食い違いだった。