2014年12月、国際宇宙ステーションで宇宙飛行士バリー・ウィルモアが、小さなラチェットレンチを手にした。
その工具は、完成品としてロケットに積まれてきたものではない。地上から送られた設計データを使い、ステーション内の3Dプリンターで作られた。製作にかかったのは約4時間だった。

印刷されたレンチを持つウィルモア。写真:NASA/Wikimedia Commons/パブリックドメイン。
地上のファイルが、宇宙で104層の樹脂になる
設計を担当したのは、NASAと契約してプリンターを開発したMade In Space社の技術者だった。工具の3Dモデルを作り、安全性などの確認を経て、データを宇宙へ送る。
ステーションのプリンターは、樹脂を少しずつ積み重ねた。104層を重ねてできたレンチは、長さ約11.4センチメートル。手のひらに収まるほどの工具である。
設計から承認、データ送信、宇宙での製作まで、実験全体は1週間足らずで進んだ。すでに宇宙へ運んであった材料を、後から届いた指示に従って別の形へ加工したのである。
宇宙のプリンターで物を作る実験は、このレンチ以前から進められていた。レンチは特に、地上で新たに用意した設計を送って、その場で工具を作る手順を試すものだった。
運ぶ荷物を減らせるか
宇宙で使う物は、打ち上げ前に選び、梱包し、ロケットへ載せる。必要になった物をすぐに届けるのは難しく、予備品を増やせば、運ぶ量も増える。
現地で作れる物が増えれば、完成品を用途ごとに大量にそろえる代わりに、材料と製造装置を用意する方法が使える。ただし、材料の種類や部品の精度、強さを満たせるかは、それぞれ確かめる必要がある。
このレンチも、ほかの印刷試料とともに地上へ戻し、分析や試験をする計画だった。宇宙飛行士が手にした時点で実験が終わるのではなく、宇宙で作ったものを地上で詳しく調べるところまでが、製造技術を確かめる仕事だった。