1974年2月5日、NASAの探査機マリナー10号が金星のそばを通過した。目的地は、さらに太陽に近い水星。金星への接近には、観測に加えて、旅の進路を大きく変える役目があった。

惑星の重力を利用して探査機の飛び方を変える、スイングバイである。マリナー10号は、ある惑星の重力を借りて別の惑星へ向かう方法を初めて実行した探査機となった。
金星は立ち寄り先であると同時に、水星へ向かうための軌道の一部になったのである。
通り過ぎる位置まで、航路に組み込む
探査機は金星へ近づくにつれて重力に引かれ、進む向きを変える。その後、金星から離れていくときには、接近前とは違う方向へ飛んでいく。この曲がり方を計算し、水星に出会える軌道へ送り込む。
図の緑の線を左から右へたどると、金星に近づく間も、通り過ぎたあとも、重力が金星の中心へ引いているのが分かる。引かれ続けることで、探査機は進む向きを変えて離れていく。
金星と一緒に動く視点では、十分遠くで比べた接近前後の速さはほぼ同じだ。一方、金星自身も太陽の周りを動いているため、太陽を基準にすると探査機の速さも変えられる。通り方を選べば加速にも減速にも使え、燃料を節約しながら目的の軌道へ移れる。
宇宙を飛ぶ惑星も探査機も、常に動いている。単に金星の近くへ行けばよいわけではなく、どの時刻に、どの位置を、どちらへ向けて通るかが重要になる。
マリナー10号は地球を出発したあとに軌道を修正し、金星への接近を成功させた。その際には金星の大気を調べ、4,000枚以上の画像も送っている。一つの探査機で二つの惑星を間近に調べる旅になった。
水星を通り過ぎても、探査は終わらなかった
1974年3月29日、マリナー10号は水星へ最接近した。送られてきた画像には、月を思わせるクレーターの多い地表が写っていた。観測では、水星が磁場を持つことも分かった。
探査機は水星の周回軌道に入らず、そのまま通り過ぎた。しかし、太陽を回る軌道を進み、軌道修正も行って、同年9月に再び水星へ接近する。さらに1975年3月には、3回目の接近を果たした。
水星のそばにとどまる代わりに、太陽を回って戻ってくる。そうして複数回の観測機会を得たのである。
3回の接近で送られた水星の写真は2,700枚以上にのぼり、地表の半分近くを記録した。金星で進路を変え、水星を通り過ぎ、太陽を回ってまた戻る。マリナー10号の探査は、惑星の動きまで利用して組み立てられた旅だった。