ふつうの紙幣には1000や10000といった額面が書かれている。ところが1946年のハンガリーには、1の後ろにゼロが20個も並ぶ紙幣が登場した。
額面は1垓(がい)ペンゲー。数字で書けば100,000,000,000,000,000,000だ。英語の資料では100 quintillion pengőと表される。
とんでもない金額に見えるが、その紙幣を持っていれば大金持ちだったわけではない。紙幣が増える速さに、通貨の価値が失われる速さが重なっていた。

1946年に発行された額面1垓ペンゲーの紙幣(資料画像)。画像:Magyar Nemzeti Bank / Wikimedia Commons / Wikimedia Commons / Public domain。表示用に縮小。
戦争が終わっても経済は元に戻らなかった
第二次世界大戦が終わったころ、ハンガリーの経済は深刻な被害を受けていた。工場や交通網が傷つき、物資が不足し、政府の財政も厳しくなった。
物が不足しているときに、お金が急速に増えるとどうなるだろう。買える物の量がなかなか増えないまま、貨幣での支払い額が膨らむ。さらに物価上昇が続くと予想されれば、人々は現金を持ち続けることを避け、早く物に交換しようとする。
通貨への信頼が失われると、物価の上昇がますます速くなる場合がある。これが極端に進んだ状態をハイパーインフレという。
1946年のハンガリーは、歴史上でも特に激しい例として知られている。国の経済を支える通貨の単位が、わずかな間に日常生活では使いにくい巨大な数字になっていった。
「大きな数字」と「大きな価値」は違う
1垓ペンゲーの紙幣は、ギネス世界記録で実際に発行された最大額面の銀行券として紹介されている。さらに額面が大きい10垓ペンゲーの紙幣も印刷されたが、こちらは発行されなかった。
いくら大きな数字が書かれていても、重要なのはその紙幣で何を買えるかだ。ある日にパンが100ペンゲーで買えたとして、翌日には1000ペンゲー必要になったら、手元の1000ペンゲーの購買力は急速に減っている。
同じ1000という数字のままでも買える量が減る。その反対に、桁の多い新しい紙幣が登場しても、豊かになったとは限らない。
ハンガリーは1946年8月に新通貨フォリントを導入し、通貨制度を切り替えた。お金の単位を変えることは混乱を整理する一手段だが、物価を安定させるには財政や金融への信頼を立て直すことも必要になる。
この異様な額面が教えてくれるのは、紙幣の数字と富の大きさは別だということだ。お金の本当の力は、そこにいくつゼロがあるかではなく、何と交換できるかで決まる。