2000年5月、世界中のGPS受信機で、同じ機械を使ったまま測位の精度が大きく改善した。
持ち主が新しい機械へ買い替えたわけではない。米国政府が衛星からの民生用GPS信号にわざと加えていた誤差を止めたのである。
出典:GPS.gov。精度は公表された目安。
GPSはもともと軍の技術だった
GPSは米国が軍事目的で開発した衛星測位システムだ。複数の衛星から届く電波と、その到達にかかった時間を利用して受信機の位置を求める。
ただし軍事機密や安全保障への懸念から、かつて民間向けの信号には**Selective Availability(SA)**という、精度を意図的に低下させる仕組みがあった。
民間の受信機が壊れていたわけではない。送られてくる信号の情報に意図的な誤差が加えられていたため、測位結果が実際の位置から大きくずれる場合があった。
2000年5月、政府が精度低下を止めた
米国政府のGPS公式サイトによれば、ビル・クリントン大統領の決定に基づき、2000年5月にSAの運用が終了した。
米国商務省が同年5月1日に出した資料では、従来の民生用GPSの精度の目安が約100メートル以内から、約20メートル以内へ改善すると見込まれていた。公式の技術史には、測位精度が約10倍向上したという説明もある。数字の違いは測り方や条件の違いであり、どこでも常に同じ改善率だったわけではない。
重要なのは、世界中で使われていた受信機がソフトウェア更新も買替えもせずに恩恵を受けたことだ。
測量、船舶、航空、救急、物流、自動車のナビゲーションなど、多くの用途で利用しやすくなった。
では、現在のスマホの位置はなぜもっと正確なのか
SAが止まったからといって、すべてのGPSがいきなり数センチ単位になったわけではない。
今日のスマートフォンでは複数の衛星測位システム、複数の周波数、携帯電話網やWi-Fiなどの情報を組み合わせて位置を推定することがある。都市の高層建築や山間部では電波が遮られ、位置がずれることもある。
GPSの精度には、衛星配置、大気を通る電波の遅れ、受信機の品質などさまざまな要因が残る。
それでも2000年の決定は、軍事的なシステムから送られる信号が、民間で広く使える共通の基盤へ変わる大きな節目だった。現在地を確認する何気ない操作の背後には、衛星工学だけでなく、国家による政策の変更もある。