メールアドレスを見ると、ほぼ必ず中央に「@」がある。あまりに見慣れた記号なので、この位置にあることに疑問を持つ人は少ない。
その記号が選ばれたのは、1971年ごろ。米国の研究開発企業BBNで働いていた技術者、レイ・トムリンソンが、別々のコンピューターの利用者にメッセージを送る方法を作っていたときだった。

2004年撮影:Andreu Veà/Wikimedia Commons/CC BY-SA 3.0。
メール自体は、彼の発明以前からあった
当時の大型コンピューターは、一台を複数の利用者が共有していた。同じ機械の中で、ある利用者が別の利用者に短いメッセージを残す仕組みはすでに存在していた。
問題は、相手が別のコンピューターを使っている場合だ。利用者の名前だけでは、どの機械へ送るのか特定できない。
トムリンソンは、同じ機械の利用者へメッセージを残すプログラムと、ネットワークを介してファイルを送るプログラムを組み合わせ、ARPANET上の別の機械へ電子メールを送る方法を実現した。
ここで必要になったのが、利用者名とコンピューター名を一つの宛先に書く方法だった。
なぜ「@」だったのか
コンピューターのキーボードには、利用者名に普通は使わない記号がいくつもあった。トムリンソンはその中から「@」を選び、利用者と機械の名前の境界に使った。
例えば alice@machine と書けば、機械 machine にいる利用者 alice という意味にできる。英語の at という前置詞とも相性がよい。
彼がまったく新しい文字を発明したわけではない。既存の記号に、ネットワーク上の新しい役割を与えたのだ。
コンピューター歴史博物館は、1973年にはARPANETの通信量の半分以上が電子メールになっていたと説明している。研究者の情報交換にとって、メールは重要な用途になった。
最初のメールには何が書かれていたのか
歴史の解説では、最初のメッセージが何だったかを尋ねたくなる。しかしトムリンソン本人は内容を記録しておらず、試験的な文字列だったと伝えられている。美しい歴史的な第一声が残っているわけではない。
大きな発明が初めから世界を変えようとして行われるとは限らない。二つのコンピューターを区別するために選ばれた小さな記号は、その後世界中で何十億回も使われるようになった。
なお、ネットワークメールの発展はトムリンソン一人で完了した仕事ではない。送受信規格、ネットワーク、画面の操作方法などが多くの研究者によって作られた。その出発点の一つが、この「@」である。