19世紀末、英国の物理学者レイリーは窒素の密度を測っていた。窒素は空気の大部分を占める気体であり、すでに知られた物質だ。
ところが、空気から取り出した窒素が、化合物から作った窒素よりほんの少し重い。
測定を繰り返しても差は消えない。空気から取った気体には、別の何かが混じっているのではないか。その小さな疑問が、新しい元素の発見へつながった。
すでに知っている気体を、どうして測り直したのか
レイリーは気体の密度を精密に測定していた。空気から酸素などを除いて窒素を取り出した場合と、アンモニアなどの化合物から窒素を得た場合を比べた。
英国王立化学会によると、空気由来の窒素は1リットル当たり約1.257グラム、化合物由来では約1.251グラムだった。どちらも窒素なら同じ密度になるはずだが、わずかな違いが残った。
数値だけなら見逃しそうな差である。だが、その差が何度も確認できるなら、測り方が悪いと決めつけることはできない。
化学者ウィリアム・ラムゼーも問題に取り組み、窒素以外の気体を分離しようとした。
空気には、反応しない気体が混じっていた
ラムゼーは空気から得た窒素を熱したマグネシウムと反応させ、窒素を化合物にして取り除いた。すると、なお反応せずに残る気体があった。
その気体は窒素より重く、ほかの物質とほとんど反応しなかった。1894年に新元素として確認され、ギリシャ語で「怠け者」に由来するアルゴンと名付けられた。
空気中のアルゴンは体積比で約0.93%。100リットルの空気にほぼ1リットル含まれている。それほど身近なのに、長く知られなかったのは反応性が低く、ほかの物質と結び付いて目立つ特徴を示さなかったからだ。
英国王立化学会によれば、18世紀のキャヴェンディッシュも空気中に反応しにくい成分があることを見いだしていた。1894年の発見は、その謎を新元素として解き明かしたものだった。
発見の出発点は、大きな違いではなかった
レイリーは1904年のノーベル物理学賞、ラムゼーは同年のノーベル化学賞を受けた。アルゴンの発見と希ガス研究が評価されたのである。
今日ではアルゴンは照明や溶接、断熱ガラスなどに利用される。人間が毎日吸う空気には、窒素と酸素以外の元素も一定の割合で含まれている。
化学史には派手な色や大きな爆発から始まる発見もある。しかしアルゴンは、同じはずの窒素が少しだけ重いという、精密な測定の違いから見つかった。