1868年、インドで皆既日食が観測された。太陽が月に隠れる短い時間に、天文学者ピエール・ジャンサンは太陽の外側の光を分析していた。
観測されたのは、それまで地球上で知られていた元素とは一致しない黄色い光の線だった。
遠い太陽に、地球ではまだ発見されていない元素があるのではないか。そんな推測から、「太陽」を意味するギリシャ語に由来するヘリウムという名前が生まれた。
光の色から元素が分かるのか
太陽光をプリズムなどで分けると、さまざまな波長の光が並ぶスペクトルが得られる。ただし均一な虹色になるだけではない。特定の波長の光が強く現れたり、逆に弱くなったりする。
原子は種類によって電子のエネルギーの構造が異なる。そのため、光を吸収したり放出したりするときに特徴的な波長の線が現れる。これが、遠く離れた天体の成分を調べる手がかりになる。
1868年の日食でジャンサンが見つけた線と、英国の天文学者ノーマン・ロッキャーが太陽の観測で調べた線が、未知の元素と結び付いた。
物質を手に取ることなく、その光から存在を推測したのである。
太陽では先に見つかったが、地球にないわけではなかった
ヘリウムの存在が推測されてから、地球上で独立した元素として確認されるまでには時間がかかった。
英国王立化学会によれば、1895年にはウィリアム・ラムゼーが鉱物から放出される気体を研究し、ヘリウムに当たるスペクトルを観測した。スウェーデンのクレーヴェとラングレーもその性質を調べ、原子量を確かめた。
地球上でもヘリウムは存在していたが、窒素や酸素のように空気から簡単に目立つ反応で見つけられる元素ではなかった。
今日では風船や冷却装置などで知られるヘリウムも、名前だけを見ると発見された場所の歴史が残っている。
地球にいながら、遠い星の成分を調べる
太陽の光からヘリウムの存在を推測した経験は、天文学と化学が結び付く重要な例となった。
遠い星へ探査機を送らなくても、光を分けると温度、運動、物質についての情報を得られる。現在、恒星や銀河の研究で使われる分光観測の基礎は、この時代の研究によって発展した。
身近な元素の名前「ヘリウム」には、地球で見つけるよりも前に、太陽から届いた光が存在を教えてくれたという歴史が刻まれている。