フランスの大統領が選挙に勝つと、フランスの国家元首になる。それだけではない。国境を越えたピレネー山脈の谷にあるアンドラ公国の国家元首にもなる。
アンドラにはもう一人、共同の国家元首がいる。スペイン北東部にあるウルヘル司教区の司教だ。フランス大統領とカトリック教会の司教が、一つの独立国家の共同元首を務める。両者がアンドラ国民によって選ばれているわけでもない。

アンドラの旧議事堂カーサ・デ・ラ・バル。画像:August Dominus / Wikimedia Commons / CC0 1.0。表示用に縮小。
山奥の谷で生まれた、奇妙な二人三脚
アンドラが位置するのは、フランスとスペインの間にそびえるピレネー山脈。現在の人口は数万人規模だが、この地域が外からの支配をどう避けるかという問題は、何百年も前から続いていた。
中世、この土地をめぐってウルヘル司教とフォワ伯が権利を争った。どちらか一方に決着をつける代わりに、13世紀の取り決めによって両者が権利を分け合う方式が確立した。現在の「共同公」という仕組みの起源である。
やがてフォワ伯側の権利はフランス王家につながり、王政の廃止や政治体制の変化を経て、フランス共和国大統領がその役割を担うようになった。もう一方はウルヘル司教の地位に結び付いたまま残った。
もともとは中世の領主たちが土地の支配権を分け合うための制度だった。それがフランス大統領とスペインの司教による共同元首という形で、21世紀の国家に残っている。
それでもアンドラはフランス領でもスペイン領でもない
共同元首が外国にいると聞くと、アンドラは外国の一部なのだろうかと思うかもしれない。しかしアンドラは独立した主権国家である。1993年に制定された憲法は、アンドラを議会制の共同公国と定めている。
日常の政治運営は、国民が選ぶ議会と、議会の信任に基づく政府が担う。共同元首には憲法上の役割があるが、フランス大統領がアンドラの政策を自由に決めたり、ウルヘル司教が一人で法律を制定したりするわけではない。
通貨にはユーロが使われ、公用語はフランス語でもスペイン語でもなくカタルーニャ語だ。政治制度の由来が他国の君主や司教にあっても、それだけでは国の言語や主権が決まらない。
国の成り立ちは、いつも一つの理想的な制度から設計されたわけではない。対立を終わらせるために結ばれた数百年前の妥協が、現代の憲法の中で形を変えながら生き続けることもある。
アンドラで興味深いのは、国家元首が二人いることだけではない。中世の支配権を分け合う仕組みが、現代の議会制民主主義と同居している点なのである。