服にくっついた植物の実を、指で一つずつ取る。散歩や山歩きの後なら、厄介な作業だ。スイスの技術者ジョルジュ・デ・メストラルは、その実を顕微鏡でのぞいた。
1941年、狩猟に出かけた際に、服と犬の毛に付いたゴボウの仲間の実がきっかけだった。表面には小さな鉤があり、繊維に引っ掛かっていた。
この構造を人の手で作れば、付け外しできる留め具になる。面ファスナーの発想は、そうして生まれた。
押すと絡み、はがすと外れる
面ファスナーを拡大すると、一方には小さな鉤、もう一方には輪になった繊維が並んでいる。押し合わせると鉤が輪を捉え、引きはがすと外れる。
一つの鉤が支える力は小さくても、たくさんが同時に引っ掛かれば、面全体で物を留められる。見た目には平たい帯の下で、細かい構造が働いているのだ。
植物にとっても、毛や衣服への引っ掛かりは役に立つ。実が動物に運ばれれば、親の株から離れた場所へ移動できる。デ・メストラルが着目したのは、その付着の仕組みだった。
発見したその日に、製品ができたわけではない
顕微鏡で鉤を見つけることと、同じ働きをする布を大量に作ることの間には、大きな距離があった。鉤と輪を製造し、何度も使える留め具へ仕上げるには、材料と製法の開発が必要になる。
発想から特許の成立までにも年月がかかっている。スイスでの特許出願は1951年、特許が成立したのは1954年だった。
自然界の構造を見つけて終わるのではなく、繰り返し製造できる形へ持ち込む。面ファスナーには、そのための長い開発が詰まっている。