2016年のアメリカ大統領選で、元国務長官コリン・パウエルは一度も大統領候補として選挙運動をしていない。それなのに、正式な開票結果では3票を獲得している。パウエルだけではない。政治家のバーニー・サンダースやロン・ポール、先住民の活動家フェイス・スポッテッド・イーグルなど、選挙戦に出ていなかった人物にも票が入った。
これは集計ミスでも、遊びで書いた投票用紙でもない。アメリカ独特の大統領選挙制度で、実際に記録された票である。
有権者が選んだ人が、もう一度投票する
アメリカでは11月の大統領選挙で、国民が大統領へ直接投票しているように見える。だが制度の上では、州ごとに「選挙人」を選んでいる。各州で選ばれた選挙人が12月に大統領を選ぶ投票を行い、その合計で勝者が決まる。
もともとは、国民が直接大統領を選ぶのではなく、その役目を担う人物を選ぶ方式だった。現在は政党が推薦する選挙人があらかじめ特定の候補への投票を約束しているため、普通は11月の結果どおりに票が集まる。
しかし約束が必ず守られるとは限らない。
2016年、トランプが勝ったテキサス州では、選挙人2人がトランプ以外に投票した。一人はロン・ポール、もう一人はジョン・ケーシックである。クリントンが勝ったワシントン州では、選挙人3人がパウエルへ、1人がフェイス・スポッテッド・イーグルへ投票した。ハワイ州の1人はバーニー・サンダースに投じた。
合わせて7票。11月の大統領候補2人とは違う名前が、正式な大統領選の記録に残ることになった。
それでも大統領は変わらなかった
では、選挙人は何に投票してもよいのか。実は州によって法律が異なる。約束と違う票を認めず、選挙人を交代させる州もある。2016年には、異なる候補への投票を試みたものの、正式な集計には残らなかった例もあった。
こうした事態を受け、2020年には連邦最高裁判所が、州は選挙人に約束どおりの投票を求め、違反した場合に制裁を科すことができると判断した。
2016年の最終的な大統領票はトランプ304票、クリントン227票。7人の投票は結果を覆さなかった。
それでも、この奇妙な7票には意味がある。世界が注目するアメリカ大統領選挙は、有権者の票を全国で単純に合計しているのではない。18世紀につくられた間接選挙の仕組みを、今も使い続けているのである。