ドローンが登場するよりずっと前、胸にカメラを下げて町の上を飛ぶハトがいた。
仕掛けたのは、ドイツの薬剤師ユリウス・ノイブロンナー。20世紀初め、伝書鳩を使っていた彼は、その飛行を写真に残そうと考えた。1908年には、ハトによる上空からの撮影方法で特許を取得している。

撮影:Julius Neubronner(1909年)/Wikimedia Commons/Public domain
飛んでいる間、誰がシャッターを切るのか
ハトはカメラを運べても、撮影の操作はできない。そこで使われたのが、時間を置いて作動する自動シャッターだった。
ドイツ技術博物館が紹介する仕組みでは、飛ばす前に小さなゴム球へ空気を入れておく。空気が抜けるとシャッターが作動し、写真が撮れる。無線で命令を送らなくても、離陸後に撮影できるわけだ。
もちろん、最初から本物のカメラを積ませたのではない。ハトを重さに慣らすため、模型を装着させて訓練した。
家へ帰るハトの性質を利用し、運搬に慣らし、撮影だけを機械に任せる。動物と小型機械を組み合わせた航空撮影だった。
ハトの胸に、パノラマカメラ
カメラには複数の型が作られた。なかでもドッペル・シュポルトは、レンズを回転させながら、湾曲したフィルムに横長の景色を写すパノラマカメラである。
スイス写真機博物館の解説によれば、撮影面の大きさは3×8センチ。小さなハトに積む機械でも、一瞬の狭い景色だけでなく、広がりのある写真を狙っていた。
ドイツ博物館には、この発明による伝書鳩用パノラマカメラが収蔵されている。当時の写真に写る胸の箱は、発明家の空想を描いた小道具ではない。
空から持ち帰った景色を売る
1909年、ノイブロンナーはドレスデンの国際写真展で実演を行った。ハトを飛ばし、持ち帰った写真を現像し、絵はがきにして販売する。撮影する動物の珍しさと、自分では見られない上空の景色が、一つの商品になった。
その後、1930年代のスイスでは、16ミリフィルムを使う伝書鳩カメラも開発された。ただし、こちらは商業的な成功には結び付かなかったという。
ハトの空撮では、地上の人間が思いどおりにカメラを向けられるわけではない。撮影したい建物の前で止まらせることもできない。それでも、飛ばしたハトが帰ってきて、フィルムから町の眺めが現れる。その一連の出来事そのものに、人を集める力があった。