1990年代初め、イギリスのケンブリッジ大学のコンピューター研究室で、研究者たちは困っていた。コーヒーを飲もうと部屋を出て、建物の別の場所まで歩いても、ポットが空になっていることがあったのだ。
そこで考えた解決策が、コーヒーポットの前にカメラを置くことだった。
大学の研究者がネットワーク技術を使って何を撮影したか。最初の対象は壮大な科学実験でも遠い宇宙でもなく、職場のコーヒーだった。
ポットまで歩かなくて済むように
1991年、研究者クエンティン・スタフォード=フレイザーとポール・ジャーデツキーらが、使っていないカメラと画像取り込み装置を組み合わせた。
カメラが撮影したのは、研究室の共有スペース「トロイの部屋」に置かれたコーヒーポット。画像は研究室内のコンピューターから見られるようにした。モノクロの小さな画像だったが、コーヒーがあるかどうかを知るには十分だった。
わざわざ廊下を歩いてポットを確認しなくてよくなった。研究室にいる人にとっては、便利な業務改善だったのである。
コーヒーが世界中から見られるようになった
1993年、カメラの画像はウェブを通じても見られるようになった。閲覧者は研究室の外へ広がり、遠く離れた国の人々まで、コーヒーが入っているかを見に来るようになった。
このカメラは、世界初期のウェブカメラとして知られるようになる。当時のウェブでは画像を手軽に見られること自体が新鮮だった。何でもない日常の光景が、ネットワークにつながるだけで世界的な話題になったのである。
カメラの運用は2001年8月に終了した。研究室が移転することになり、コーヒーポットを映し続ける必要がなくなったためだ。
今では世界中の風景をライブ映像で見ることができる。しかし、その先駆けとなったカメラは、研究者たちが無駄足を踏まずにコーヒーを飲むために動き始めた。