古い教会の窓ガラスは、ときに下の方が厚くなっている。その理由を「ガラスは非常にゆっくり流れる液体だから」と聞いたことがあるかもしれない。
話としてはよくできている。硬そうに見えるガラスも、何百年もたてば重力に引かれて少しずつ垂れ下がる。目に見えないほど遅い変化が、古い建物に痕跡を残す。ところが、これは長く流布した誤解だ。
コーニング・ガラス博物館によれば、室温のガラスは固体として振る舞い、歴史的な窓の厚さの違いを流動で説明することはできない。窓よりはるかに古いガラス製の器や工芸品にも、重力によって下部にガラスが集まった様子は見られない。
厚さが揃わない本当の理由は、昔の製造方法にある。現代の板ガラスは溶けたガラスを平らに流して均一な厚みに仕上げられるが、かつては吹いたガラスを筒状や円盤状にして加工するなど、手作業の影響が大きかった。最初から薄いところと厚いところができたのである。
「ガラスは結晶ではない」という話も、この誤解を広めた。ガラス内部の原子は結晶のように規則正しく並んでいない。しかし、原子の並び方が不規則だからといって、室温で液体のように流れるわけではない。
古い窓を見て、遠い昔から今まで流れ続けた姿だと想像したくなる。けれどそこに残っているのは、何世紀もの重力の働きではなく、当時のガラス職人の手仕事だ。