工場を一日長く動かせば、その分多くの製品をつくれる。大量生産で名を上げた自動車メーカーのフォードが、1926年に週5日・40時間労働を導入したのは、その意味では意外な決定だった。
しかもヘンリー・フォードは、従業員を休ませる理由として、消費者が商品を買い、使う時間の必要性を挙げていた。
車は買っても、乗る時間がなければ
20世紀初頭、自動車は富裕層だけの高級品から、一般家庭へ普及する商品に変わりつつあった。フォードは工場での流れ作業を発展させ、同じ型の車を安く大量につくることに力を注いだ。
しかし、工場の生産力が上がり続けても、買い手がいなければ商売は成り立たない。車の値段が下がったとしても、働く人に自由な時間がほとんどなければ、遠くへ出かけたり、休日に車で遊びに行ったりする機会も限られる。
フォードは1926年の発言で、アメリカの工場が長時間労働に戻れば、人々は生産された商品を消費する時間も意欲も手段も失うという考えを述べた。つまり従業員の休日は、働く人の生活改善であると同時に、企業の顧客を育てる仕組みでもあった。
週休二日はフォードの発明ではない
それ以前にも労働時間を短縮する動きは続いていた。労働組合は長年にわたって短い労働時間を求め、フォード以前から週休二日に近い制度を取り入れた職場もあった。フォードが休日という考え方を初めて考案したわけではない。
また、フォードの経営には従業員の私生活への干渉など、現在から見れば問題のある面もあった。休日を増やしたという事実だけで、すべての労働政策を美談にすることはできない。
それでも1926年の判断には、大量生産が生んだ新しい発想が表れている。工場でつくる商品の数を増やすには、働く人を長時間働かせるだけでなく、その人々が買い物をする余裕や商品を楽しむ時間を持つことも必要だという考えだ。
車をつくる工場の経営者が、車に乗る人の休日まで気にかけるようになった。大量生産の時代には、生産の効率と消費の時間が結び付いていた。