紙を差し込み、電話番号を押す。FAXにはそんな印象がある。ところが、その原型の特許は1843年に出ている。日本なら江戸時代の天保14年だ。
考案したのは、スコットランドの時計職人アレクサンダー・ベイン。音声を送る電話が広まる前に、図柄を電気信号に変え、離れた場所で再現する仕組みを考えていた。電話回線を使う身近な機械の祖先は、電信と時計の技術から生まれたのである。
二つの振り子で同じ場所をなぞる
画像を送るには、まず原稿のどこに印があるかを、順番に読み取らなければならない。受け取る側も、それと対応する位置に印をつける必要がある。
ここで時計職人の技術が生きる。ベインが利用したのは、一定のリズムで動く振り子だった。送信側と受信側の動きをそろえ、図柄を少しずつなぞっていく。送信側では電気を通すかどうかの違いを信号に変え、受信側では電気化学的な反応によって記録する。
原稿を細い線に分けて読み取り、遠くで組み直す。現代のFAXにつながる基本的な発想が、この時点ですでに含まれていた。送る側と受ける側の位置がずれれば、図柄もうまく再現できない。二つの装置を同期させることは、画像通信の中心的な課題だった。
発明から、机の上に置かれるまで
もちろん、1843年の装置がそのまま家庭や会社のFAXになったわけではない。小型化や高速化、価格、扱いやすさには、その後の技術が必要だった。
用途も広がった。スミソニアンの通信史では、AP通信が1934年に写真電送を使い始めたことが紹介されている。文字による電報だけでは伝わらない現場の姿を、画像として遠くへ送れるようになった。
さらにデジタル技術が、装置の速度や信頼性、小型化を進めた。身近な事務機器として定着するまでには、発想の誕生から長い時間がかかっている。
FAXの歴史をたどると、最初に現れるのは電話の受話器ではなく、二つの振り子である。時計を正確に動かすための工夫が、紙の上の図柄を遠くへ運ぶ技術につながっていた。