1982年3月1日、ソ連の探査機ベネラ13号が金星の地表に降り立った。そこから送られてきたのは、金星の地表を捉えた初のカラー画像だった。厚い雲の向こうに隠れていた地面が、ついに色を伴って見えるようになったのである。
探査機は写真を撮るだけでなく、地表の試料も分析した。地球から眺めているだけでは分からない物質の情報を、実際に降りた装置が確かめた。その活動時間は127分。2時間余りで地表からの観測は終わった。
雲の下に降りる代償
金星の観測を難しくするのは、まず厚い雲だ。可視光で地表を見通すことができず、上空からの観測には制約がある。
ところが、雲の下へ装置を降ろせば問題が解決するわけでもない。地表には約460℃の高温と、地球の海面付近の90倍ほどの圧力が待っている。機械にとっては、着陸してからも過酷な環境が続く。
探査機は目的地へ到着した後、カメラや観測装置、電子回路を動かさなければならない。外からの圧力に耐える構造だけでなく、熱が内部へ入り、機器の動作を妨げるまでにどう観測を進めるかも課題になる。
ベネラ13号にはパノラマカメラに加え、温度・圧力センサーや、土壌試料を調べる蛍光X線分析装置などが搭載されていた。地表で過ごせる短い時間に、複数の種類のデータを集める構成だった。
2時間の観測では届かないもの
127分あれば、写真を送り、試料を調べることはできる。しかし、その場所の天気がどのように変わるか、地面がどんな周期で揺れるかといった現象を追うには、ずっと長い観測が要る。
NASAの2019年の技術報告でも、金星着陸機の短い寿命が、時間とともに変わる現象の理解を制限してきたと指摘されている。そこで研究されているのが、高温でも動く炭化ケイ素の電子回路などだ。内部を熱から守る工夫に加え、熱い環境で働ける部品そのものを開発する方向である。
ベネラ13号が送ったのは、遠い惑星の静止画だけではない。金星の地表に実際に装置を置けば何が調べられるのか、そして何を調べるには時間が足りないのか。その両方を示す、127分の観測だった。