アメリカ国立標準技術研究所(NIST)には、ピーナッツバターがある。瓶には「SRM 2387」という番号が付いている。
食品の成分を測るための、標準物質だ。何がどれだけ含まれているかを詳しく測定し、その値を証明書に記したうえで、研究機関や企業などへ提供する。
購入者が欲しいのは、朝食の味ではない。自分たちの測定が合っているかを確かめるための、答えが分かっている試料なのである。
正確な装置かどうかを、何で確かめるのか
食品の袋に書かれた脂質やたんぱく質の量は、分析によって求められる。しかし、測定器が数字を表示しただけでは、その数字が正しいかは分からない。試料の処理方法に問題があったり、成分を十分に取り出せていなかったりする可能性もある。
そこで、成分の値が詳しく分かっているピーナッツバターを、普段と同じ方法で分析する。結果が証明書の値と合うかを調べれば、分析方法や装置の状態を検証できる。
たとえば、含まれる脂肪酸や元素、栄養成分などについて、測定結果を比較する。証明書には値だけでなく、その値にどれくらいの不確かさがあるかも示される。
純粋な成分だけでは、食品の分析を試せない
ピーナッツバターには脂肪をはじめ、さまざまな成分が混ざっている。この混ざった状態が重要だ。
純粋な物質を測れたとしても、実際の食品から目的の成分を取り出して、正しく測れるとは限らない。高脂肪の食品に近い試料で分析全体を確かめるため、ピーナッツバターという形に意味がある。
NISTはほかにも、食品や飲料に関係する標準物質を提供している。身近な食べ物が、測定をそろえるための道具になるのだ。
食品の表示を支えているのは、装置だけではない。別の研究室で測っても結果を比べられるようにする、共通の試料も必要になる。その役を引き受けるピーナッツバターには、味の評価に代わって、成分の測定値が添えられている。