アメリカ南西部、アリゾナ州のレイクハバスシティには、ロンドン橋が架かっている。英国風に似せた名前だけの橋ではない。かつてテムズ川に架かっていた橋の石が、ここまで運ばれてきたのである。
周囲に広がるのは乾いた土地だ。ロンドンの川辺を離れた石のアーチが、今は砂漠の町で水路をまたいでいる。

ロンドン橋。撮影:Nor56Ubr6/Wikimedia Commons/パブリックドメイン。
町を売り出すために、橋を買う
移築されたのは1831年に開通した橋だった。20世紀に入り自動車交通が増えると、橋の老朽化や沈下が問題となり、ロンドンでは架け替えが進められる。
そこへ現れた買い手が、実業家ロバート・マカロックである。彼はハバス湖沿岸で新しい町を開発していた。人に来てもらい、土地や住宅への関心を集めるには、遠くからでも見に来たくなるものが欲しい。
1968年、マカロックは橋を約246万ドルで購入した。ただし、買えばそのまま使える品物ではない。解体し、大西洋を渡らせ、砂漠まで運び、もう一度橋にする仕事が残っていた。
一万個以上の石を、元の位置へ戻す
運ぶ対象になったのは、橋の外側に使われていた1万276個の花崗岩のブロックだった。解体前にそれぞれ番号を振り、後から位置を特定できるようにした。
石は船でパナマ運河を通ってカリフォルニアへ渡り、さらにトラックでアリゾナへ向かった。現地では新しい骨組みを造り、その外側に英国から運んだ石を据え直した。外観を受け継ぎつつ、自動車を通せる構造に組み直したのである。
もう一つ必要だったのが、橋の下を流れる水だった。現地では水路を掘り、湖につないだ。ロンドンでは既にある川を渡るために造られた橋が、アリゾナでは町づくりの中心となり、その下に水路まで用意された。
再開通の式典は1971年10月10日。およそ3年をかけた再建の後、番号を付けて運んだ石の列は、再び人や車の通る橋になった。