人間の血は赤い。しかしカブトガニの血液は青い。赤血球のヘモグロビンではなく、銅を含むヘモシアニンという物質で酸素を運ぶためだ。
その青い血が、人間の薬の安全性を確かめるために長く使われてきた。血の色だけでも珍しいのに、なぜ医薬品の製造と結び付いたのだろうか。
細菌の痕跡を見つける仕組み
1960年代、アメリカの研究者フレデリック・バングらは、カブトガニの血液に細菌由来の物質が入ると、血液の細胞が素早く反応して固まることに注目した。
特に検出したいのは、グラム陰性菌の外側にある「エンドトキシン」と呼ばれる物質である。生きた細菌がいなくても残ることがあり、体内へ入ると発熱などの強い反応を引き起こすおそれがある。
注射薬やワクチン、体内に触れる医療機器では、そうした汚染がないか調べることが重要だ。
カブトガニの血液細胞からつくった試薬は、エンドトキシンのわずかな存在にも反応する。この検査はLAL試験と呼ばれ、医薬品の安全確認に広く使われるようになった。
命を守る検査が、別の生き物に負担をかける
検査に必要な血液を得るため、カブトガニは捕獲され、採血される。採血後に海へ戻される場合もあるが、採血や運搬による負担が問題になっている。
そこで近年は、カブトガニの血液に頼らない組換えタンパク質を用いた検査法が開発されている。米国FDAも2026年、動物由来の試薬への依存を減らす新しい検査手法について、国際的な協力の成果を発表している。
海辺を歩く古い系統の生物が持っていた細菌への防御反応が、人間の医薬品を検査する方法へつながった。そして現在、その仕組みを人間の技術で再現する研究が進んでいる。