心臓の音を記録したいのに、装置のほうが規則的な信号を出してしまう。1956年、技術者ウィルソン・グレートバッチの回路で、そんなことが起きた。
原因は、抵抗器の取り違えだった。予定していたものとは抵抗値の違う部品を入れた結果、回路は一定の間隔で電気パルスを出し始めた。グレートバッチは、その動作を見て、心臓の拍動を助ける装置に使えるのではないかと考えた。
記録する回路から、刺激する回路へ
心臓の筋肉は電気的な信号を受けて収縮する。信号の発生や伝達に問題があるとき、人工の電気刺激で拍動を助けるのがペースメーカーの役割である。
グレートバッチが気づいたのは、間違って組んだ小さな回路が、その刺激の源になり得ることだった。だが、机の上で周期的な信号が出ることと、人の体内で長く使えることの間には、大きな距離がある。
電池と回路を小さくまとめ、体内で使えるよう保護し、電極を通じて心臓へ刺激を伝える必要があった。一定の間隔で動けばよいというだけでは足りず、故障せずに働き続けることが欠かせない。
彼は外科医ウィリアム・チャーダックやアンドルー・ゲージと協力し、動物実験や改良を重ねた。抵抗器を間違えたときの発見は、この長い開発作業の出発点だったのである。
最初の50個は、自宅の作業場で作った
1960年、チームが開発した装置は人の患者に埋め込まれた。アメリカ退役軍人省の歴史資料によれば、グレートバッチは初期の50個を、自宅裏の作業場で手作りしたという。
この装置は電池も体内に収めるため、電源の寿命も重要だった。体の中で電池が切れれば、机上の機械のように簡単には交換できない。グレートバッチは後に、長寿命のリチウム系電池をペースメーカーへ導入する仕事にも取り組んだ。
最初のきっかけは、一つの部品を取り違えたことだった。その後に必要になったのは、回路、電池、電極をそろえ、医師とともに試し、実際に体内で使える装置に仕上げる年月だった。