クロアチアの港町ザダルで海沿いの階段に腰を下ろすと、石の下から低い笛のような音が聞こえてくる。波が強まれば音も変わり、しばらく静かになったかと思うと、別の音が重なってくる。近くに演奏者はいない。音を出しているのは海なのだ。
海岸に組み込まれているのは「海のオルガン」と呼ばれる装置である。ザダル観光局によれば、全長約70メートルの海岸線の下に、長さや太さ、傾斜の異なる35本の管が設置されている。波が押し寄せると管の中の空気が動き、陸側の出口から音が生まれる。
通常の楽器では、人が鍵盤や弦を操作して音の高さやタイミングを決める。ところがここでは、いつ、どの管が鳴るかを波が決める。波が不規則にやってくるため、音が重なったり、途切れたりする。作曲家が完成した楽譜を演奏するのではなく、管の配置だけを設計し、その後の演奏を海に任せている形だ。
よく考えると、この装置は波の力をただ音に変換している。電動のスピーカーで海らしい音を流しているわけではない。海の状態が変われば、その変化がそのまま音に現れる。
潮の満ち引きや風の具合が違えば、同じ階段に座っていても聞こえる音は変わる。ザダルの海岸には、誰も鍵盤を弾かない楽器が据えられている。
