ベトナムのハノイには、濃いコーヒーの上に甘い卵のクリームを載せた飲み物がある。カフェ・チュン、いわゆるエッグコーヒーだ。泡立てた卵黄と甘味のある材料を使い、コーヒーの苦みとカスタードのような濃厚さが重なる。
この飲み物の始まりについては、1940年代に牛乳が不足したとき、代わりに卵を使ったという店の伝承が知られている。詳しい事情にはさまざまな語り方があるが、手に入りにくい材料を別のもので補う工夫から生まれたという説明は広く伝わっている。
卵黄を泡立てると、普通の牛乳を注ぐのとは違うなめらかな口当たりが生まれる。代用品だったとしても、その味は元の飲み物とは別物になる。現在では旅行者がわざわざ注文する、ハノイを代表する飲み物の一つだ。
材料が足りないときの工夫が、あとになって土地の特色として残ることがある。エッグコーヒーは、そのような食文化の歴史を感じさせる一杯である。