雪の降る長野県の地獄谷野猿公苑では、ニホンザルが温泉の中で目を細めている。人間の露天風呂に似た写真だが、すべてのニホンザルが温泉へ入るわけではない。地獄谷の群れで見られる、特別な行動だ。
サルたちが温泉を利用するようになった経緯には、個体の行動と周囲のサルへの広まりが関わると考えられている。ある個体が始めた行動を別の個体が見て、経験を通じて習慣になる。サルの食物洗いなどと同じように、動物の暮らしが学習によって変わる例としても関心を集めてきた。
ただし、サルにとって温泉がなければ冬を生き抜けないわけではない。野生のニホンザルは寒冷な地域にも暮らし、毛や行動の工夫で冬に対応している。地獄谷で温泉が利用できるという条件が、あの姿を生み出したのだ。
公苑では野生の群れを管理し、給餌も行っている。雪と湯気に囲まれた風景の背後には、人間とサルが長く接してきた歴史もある。動物の「自然な行動」を考えるときにも、その環境を誰が整えているかを見落とせない。