パナマ運河を通る貨物船は、海から海へ水平に走り抜けるわけではない。途中で海面より約26メートル高いガトゥン湖まで上がり、反対側の海へ下りる。山を切り開いた水路なのに、船は一度、海より高い場所へ登るのである。
船を持ち上げるのは閘門(こうもん)と呼ばれる施設だ。巨大な船が入れる水槽のような区画に船を進め、門を閉じる。そこへ水を入れると、水面が上がるのに合わせて船も浮き上がる。船体をクレーンで吊り上げる必要はない。反対側では区画の水を抜き、水位とともに船を下げていく。
この仕組みで主役になるのは、水を送り込むポンプではなく重力である。パナマ運河庁によれば、従来の閘門では高い位置にあるガトゥン湖の水を自然に流し込んで船を持ち上げる。湖に蓄えた淡水は、船が通るたびに使われる。
だからこそ運河を運営するうえで、雨は重要だ。水が不足すれば船の喫水や通航隻数に制限が必要になることがある。世界中の船舶が利用する海の近道は、実はパナマの陸地に降る雨によっても成り立っている。
巨大な貨物船を支えるのに特殊な力が必要なのではない。水を入れれば船が浮き、水を抜けば下がる。その単純な原理を、数十メートルの高低差と大型船に対応できる規模にしたものが、パナマ運河の閘門なのである。