旅客機は数十トン、時には数百トンもある。それほど重い物体が、空気しかない場所を何時間も飛んでいく。エンジンの力だけで真上へ持ち上げているわけではない。主役は両側へ伸びた翼だ。
翼には、周りを流れる空気から揚力という上向きの力を生み出す働きがある。しかし、その説明には広く伝わっている誤解が混じっている。

撮影・出典:Oblivion8000 / Wikimedia Commons / Public domain(表示用に縮小)
翼は空気の流れを下へ曲げる
翼の周りを空気が流れると、翼の上下面で圧力が異なる分布をつくる。翼表面の圧力を全体として考えると、上向きの力が現れる。同時に翼は周囲の空気を下向きへ曲げ、空気に下向きの運動量を与えている。
この二つは別々に競い合う説明ではなく、同じ流れを力と運動量の両面から見たものだ。翼の形だけでなく、翼が風を受ける角度である迎角、速度、空気の密度などによって揚力は変わる。
「上の空気は遠回りだから速い」だけでは足りない
よくある説明はこうだ。翼の前で上下に分かれた空気は後ろで同時に合流するため、上側の長い経路を通る空気は速く進まなければならない。その結果、上の圧力が下がる――。
ここが間違いだ。上下に分かれた空気が後縁で同時に合流するという法則はない。 NASAはこの「等時間通過説」が誤りだと明確に説明している。
翼の上を流れる空気が速くなる場合は確かにある。その流速や圧力差は、翼の形、迎角、周囲の流れ全体によって決まり、「同時に着くから」ではない。ベルヌーイの式自体が間違いなのではなく、速度を決める前提が間違っているのだ。
逆さまになっても飛べるのはなぜ?
飛行機の翼を上下反対にしたら、必ず墜落するだろうか。そうとは限らない。曲芸飛行機は背面飛行ができる。翼の断面形状だけで揚力が一意に決まるわけではなく、迎角を調整して上向きの力を確保できるためだ。
もちろん迎角を大きくしすぎれば、翼の周囲の流れが大きくはがれて失速することがある。飛行機が飛ぶ仕組みを理解するには「上が長いから速い」という一枚の図ではなく、翼と空気が互いにどう力を及ぼし合うかを見る必要がある。