日本語と英語は違う言語だ。中国語ともアラビア語とも違う。では、一つの国の中に、そうした別々の言語が800以上存在するとしたらどうだろう。
パプアニューギニアは、世界でもとりわけ言語の種類が多い国として知られる。研究機関の集計では、話されている言語は800以上。これは単に方言の言い回しが少し違うという話ではない。互いに理解できないほど異なる言語が、比較的小さな地域に数多く並んでいるのだ。
なぜ、そんなことになったのか。重要なのは地形と人々の歴史である。ニューギニア島には険しい山脈や深い谷、密林が広がり、長い間、地域ごとの集団がそれぞれの暮らしを営んできた。集団間の交流がまったくなかったわけではないが、言葉が一つにまとまるほど頻繁に行き来しない地域も多かった。時間がたてば、言葉は少しずつ変化し、別々の言語へ分かれていく。
そこで便利になるのが、異なる言語を話す人々の共通語だ。パプアニューギニアでは「トク・ピシン」という言語が広く使われている。英語などの影響を受けて発達した言語で、互いに異なる母語を持つ人々を結んでいる。
国の中に800以上の言語があるということは、800通り以上の言葉で、家族の思い出や土地の知識、昔から伝わる物語が語られているということでもある。
隣り合う谷でも別の言語を話す土地では、学校教育や行政の共通語と、家庭で使う母語の役割をどう両立させるかが課題になる。言語の数の多さは、暮らす人々の具体的な生活とも結びついている。