土星の衛星ミマスを写真で見ると、誰もがまず大きな丸い穴に目を奪われる。幅約130キロメートルのハーシェル・クレーターだ。衛星そのものの直径が約400キロメートルしかないのだから、表面が大きくえぐられたように見える。
氷の表面には古い衝突痕が残り、活発な地殻変動を示すような地形も目立たない。だから長い間、ミマスは凍りついた、動きの少ない天体と考えられてきた。

2017年の探査機カッシーニによるミマスの写真。地下海そのものが写っているわけではない。画像:NASA / JPL / Wikimedia Commons / Public domain(表示サイズを縮小)
ところが2024年、科学誌『Nature』に発表された研究が、この地味な天体の内部に全球を取り巻く液体の海がある可能性を示した。
氷の下を直接見たわけではない
研究者が調べたのは、探査機カッシーニの観測記録に残るミマスの軌道運動、とくに軌道の向きの変化だった。
衛星が土星の周りを回るとき、その動きは内部がどのような構造になっているかにも影響される。すべてが固い塊の場合と、外側の氷の殻の下に液体の層がある場合では、重力や潮汐に対する応答が異なるからだ。
Laineyらは観測結果と力学モデルを比較し、氷の表面から約20〜30キロメートル下に液体の海があるという解釈が合うことを示した。ただし、穴を掘って水を採取したわけでも、海を直接撮影したわけでもない。観測に基づく有力なモデルであり、今後の検証が必要な結論だ。
もし海があるなら、驚くほど若い
さらに研究が示したのは、この海が比較的新しく形成された可能性である。モデルでは、海の年齢は約2500万年未満と推定された。太陽系の約46億年という歴史に比べれば、ごく最近の出来事だ。
研究チームによれば、海と氷の境目が表面から30キロメートル以内に近づいたのは、さらに最近の数百万年ほど前かもしれない。そのため、ほかの海を持つ衛星で見られるような、内部活動を示す地形がまだ表面に現れていない可能性がある。
では、水はどうして凍らないのか。土星の重力で衛星が繰り返し変形する潮汐加熱が、内部の熱源として関わると考えられている。氷の塊に見える衛星の内部で、重力が熱を生みうるのだ。
これまで「海のある衛星」を探すときは、割れ目や噴出物のような表面の活動が手掛かりになってきた。ミマスの研究が重要なのは、表面が静かだから内部にも海がないとは言い切れないと示唆したことにある。
もちろん、地下海の可能性と生命の存在は別の話だ。存在するかもしれない海がどんな化学環境なのか、生命に必要な条件を満たすのかは、まだ分かっていない。