深海の底は暗い。太陽の光が届かず、植物も育たない。地上の食物網の出発点が多くの場合、光合成をする植物や藻類であることを考えれば、そこに生き物が密集する様子を想像するのは難しい。
ところが1977年、ガラパゴス諸島近くの海底を調べていた研究者たちは、熱い水が湧き出す場所の周囲に多くの生き物が集まる光景を発見した。
光がないのに、何を食べていたのだろう。

1981年に撮影された別地点の熱水噴出孔。1977年の発見地点そのものの写真ではない。画像:W.R. Normark / Dudley Foster / USGS / Wikimedia Commons / Public domain(表示サイズを縮小)
海底の煙突は、燃えているわけではない
海底の割れ目にしみ込んだ水が、地下の高温の岩石によって熱せられる。温かくなった水は鉱物成分を含み、再び海底へ噴き出す。
熱い水が冷たい海水と混ざると、溶け込んでいた金属などの成分が小さな粒子になり、黒い煙のように見えることがある。これがブラックスモーカーだ。煙に見えても燃焼しているのではなく、細かな鉱物粒子が水中を漂っている。
噴出口の温度は300℃を超えることもある。地上なら水は激しく沸騰する温度だが、深海では水圧が非常に高いため、すぐに沸騰するとは限らない。
食物網の出発点が、太陽光ではない
この場所で重要なのは、熱そのものを食べ物にしているわけではないという点だ。硫化水素などの物質を利用する微生物が、化学反応から得たエネルギーを使って有機物を作る。これを化学合成という。
地上の植物が光を使って有機物を作るのに対し、熱水噴出孔の一部の微生物は、物質同士の化学反応を利用する。微生物を直接食べる動物もいれば、微生物を体内に共生させ、そこで作られた栄養に頼る動物もいる。
熱水噴出孔を中心とする生態系は、このように光合成以外の一次生産を利用できる。太陽を見たことのない場所にも、別のエネルギーの入口があったのである。
もちろん、深海のあらゆる生物が化学合成だけで生きているわけではない。上の海から沈んでくる有機物に頼る生物も多い。大切なのは、深海の一部には、表層から食べ物が降ってくるのを待つだけではない生態系が存在するという発見だ。
この発見は、地球の生態系に対する見方だけでなく、氷の下に海を隠した太陽系の衛星を調べる理由にもつながる。光が届かなくても、化学反応によるエネルギーがあれば、生命を支える条件の一部を満たしうる。だが、それは地球外生命が見つかったという意味ではない。