貝の殻を割るなら、硬い石で叩けばいい。海の中には、それを自分の前脚でやってのける小さな動物がいる。色鮮やかなモンハナシャコだ。目の前の巻き貝に向けて、折りたたんでいた捕脚を一気に振り下ろす。速すぎて、人の目には何が起きたか分からない。
ところが研究者が力を測ると、奇妙な結果が出た。一度しか振っていないのに、衝撃が二度記録されたのである。
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野生のモンハナシャコの写真。論文で実験した個体そのものではない。画像:Elias Levy / Wikimedia Commons / CC BY 2.0(表示サイズを縮小)
一発目は腕、二発目は水
2005年、PatekとCaldwellが公表した研究では、モンハナシャコの打撃に二つの大きな力のピークがあり、その間隔は典型的には約390〜480マイクロ秒だった。最初の衝撃は捕脚が相手に当たる力。では、その数万分の一秒後に何がぶつかるのか。
答えは水の泡だ。捕脚が急激に動くと、周囲の水の圧力が局所的に下がり、水が一瞬だけ気泡となる。これをキャビテーションという。泡は長く浮かんでいるわけではない。周囲の圧力によって急激につぶれ、そのとき強い力が生じる。
水中で「ものを叩いた」のに、水そのものが追加の衝撃を生んだことになる。研究で測定された捕脚の衝撃力は400〜1501ニュートン、泡の崩壊に伴う力は最大504ニュートンに達した。ただし、これは特定種を特定条件で測った値であり、すべてのシャコが同じ力で叩くわけではない。
生物が「ばね」を使う理由
筋肉が直接腕を動かすだけで、この速さを出すのは難しい。モンハナシャコは外骨格の一部をばねのように変形させてエネルギーを蓄え、留め具を外すように一気に解放する。2004年の研究では、捕脚の先端が秒速14〜23メートルに達する様子が記録された。
この構造を知ると、打撃の正体が変わって見える。腕力で押し続けるのではない。ゆっくり蓄えたエネルギーを、ほんの一瞬に集中させるのだ。
カニや貝の殻を壊すには、ただ力が強ければよいとは限らない。短時間に集中する衝撃と、泡がつぶれるときの力が重なる。それがモンハナシャコの武器なのである。
なお、キャビテーションは船のスクリューなどでも起こり、機械を傷める原因になる。工学では避けたい現象を、海の小さな捕食者は獲物を壊す際に生じさせている。ただし、殻を壊すうえで両者がどの程度役立つかは、相手の殻の形や打撃条件にも左右される。