道を歩いていて、電線の上のカラスと目が合う。昨日も同じ場所で見かけた気がする。こちらがカラスを見分けられなくても、向こうはすでにこちらの顔を覚えているかもしれない。
これは単なる「カラスは賢い」という印象ではない。米国ワシントン大学の研究者らは、人間の顔を区別し、危険だと学んだ顔を長く警戒することを野外実験で確かめた。

研究対象と同じ種の実写真であり、実験に参加した個体ではない。画像:Linda Tanner / Wikimedia Commons / CC BY 2.0(表示用に縮小)
仮面をかぶって、カラスを捕まえた
研究者が用意したのは、特徴の異なる人間の顔の仮面だった。一方の「危険な顔」の仮面をかぶって、野生のアメリカガラスを一時的に捕獲し、標識をつけて放す。もう一方の「中立な顔」は、そのような経験と結びつけない。
その後、研究者が同じ仮面をつけて歩くと、カラスは「危険な顔」を見分け、鋭い声を出して威嚇した。仮面をかぶる人の年齢や体格、歩き方が違っても反応が続く場合があった。服装やその場の人影だけではなく、顔の特徴が手掛かりになっていたことを示す結果だ。
2010年に発表された研究では、少なくとも2.7年にわたる識別が報告された。目の前に危険がないからといって、一度の経験をすぐ忘れるわけではない。
一度も捕まっていないカラスまで騒ぎ始める
さらに面白いのは、この警戒が一羽の記憶だけにとどまらなかったことだ。
2011年公表の論文では、捕獲された経験がないカラスが「危険な仮面」に反応する例が確認された。ほかのカラスが騒ぐのを見たり聞いたりして学ぶ、社会的学習と考えられる。親が反応することで、若いカラスがその顔を警戒する事例も観察された。
ある調査地では、危険な仮面への威嚇の頻度が5年間でおよそ2倍になり、反応する範囲は少なくとも1.2キロメートル広がった。見知らぬ人間の「顔の評判」が、カラスの社会の中を移動していったかのようだ。
ただし、これはすべてのカラスが同じように顔を覚える、という証明ではない。観察されたのは特定地域のアメリカガラスであり、どの鳥がどの経路で学んだかは個体によって違う。
人間の街で暮らす鳥にとって、何が得なのか
危険な相手を自分で一度経験して覚えるのは、正確だがリスクが大きい。仲間の反応から学べれば、自分が捕まる前に避けられるかもしれない。これは群れの中で情報を使うことの強みだ。
もちろん、カラスが人間の名前や個人情報を理解しているわけではない。顔の特徴と危険な出来事を結びつけている、という研究である。
いつもの通学路や街角でカラスに見られているとき、こちらにはただの「一羽のカラス」に見えても、向こうにとってあなたは「前に見た人」なのかもしれない。