解説 · 生物

カラスは人間の顔を覚える。しかも危険人物の情報が仲間に広がる

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更新日:2026-10-31

道を歩いていて、電線の上のカラスと目が合う。昨日も同じ場所で見かけた気がする。こちらがカラスを見分けられなくても、向こうはすでにこちらの顔を覚えているかもしれない。

これは単なる「カラスは賢い」という印象ではない。米国ワシントン大学の研究者らは、人間の顔を区別し、危険だと学んだ顔を長く警戒することを野外実験で確かめた。

北米に生息するアメリカガラス。人間の顔を識別する野外研究で使われた種

研究対象と同じ種の実写真であり、実験に参加した個体ではない。画像:Linda Tanner / Wikimedia Commons / CC BY 2.0(表示用に縮小)

仮面をかぶって、カラスを捕まえた

研究者が用意したのは、特徴の異なる人間の顔の仮面だった。一方の「危険な顔」の仮面をかぶって、野生のアメリカガラスを一時的に捕獲し、標識をつけて放す。もう一方の「中立な顔」は、そのような経験と結びつけない。

その後、研究者が同じ仮面をつけて歩くと、カラスは「危険な顔」を見分け、鋭い声を出して威嚇した。仮面をかぶる人の年齢や体格、歩き方が違っても反応が続く場合があった。服装やその場の人影だけではなく、顔の特徴が手掛かりになっていたことを示す結果だ。

2010年に発表された研究では、少なくとも2.7年にわたる識別が報告された。目の前に危険がないからといって、一度の経験をすぐ忘れるわけではない。

一度も捕まっていないカラスまで騒ぎ始める

さらに面白いのは、この警戒が一羽の記憶だけにとどまらなかったことだ。

2011年公表の論文では、捕獲された経験がないカラスが「危険な仮面」に反応する例が確認された。ほかのカラスが騒ぐのを見たり聞いたりして学ぶ、社会的学習と考えられる。親が反応することで、若いカラスがその顔を警戒する事例も観察された。

ある調査地では、危険な仮面への威嚇の頻度が5年間でおよそ2倍になり、反応する範囲は少なくとも1.2キロメートル広がった。見知らぬ人間の「顔の評判」が、カラスの社会の中を移動していったかのようだ。

ただし、これはすべてのカラスが同じように顔を覚える、という証明ではない。観察されたのは特定地域のアメリカガラスであり、どの鳥がどの経路で学んだかは個体によって違う。

人間の街で暮らす鳥にとって、何が得なのか

危険な相手を自分で一度経験して覚えるのは、正確だがリスクが大きい。仲間の反応から学べれば、自分が捕まる前に避けられるかもしれない。これは群れの中で情報を使うことの強みだ。

もちろん、カラスが人間の名前や個人情報を理解しているわけではない。顔の特徴と危険な出来事を結びつけている、という研究である。

いつもの通学路や街角でカラスに見られているとき、こちらにはただの「一羽のカラス」に見えても、向こうにとってあなたは「前に見た人」なのかもしれない。

REFERENCES

参考文献・出典

  1. Lasting recognition of threatening people by wild American crows ↗Marzluffら, Animal Behaviour 79, 699–707(2010年)
  2. Social learning spreads knowledge about dangerous humans among American crows ↗Cornellら, Proceedings of the Royal Society B(2012年掲載)
  3. Crows Remember a Face…for a Long Time! ↗John M. Marzluff, Yale University Press(2025年)

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